旨みたっぷり!小豆島醤油
日本の食卓に欠かせない醤油は、海外でも「SOY SAUCE(ソイソース)」として人気の万能調味料。まろやかなコクと旨み、独特の芳しい香りは料理の味をぐっと引き立ててくれます。
古くから醤油は全国各地で醸造されてきましたが、千葉県と兵庫県、香川県小豆島は三大名産地として特に有名です。
なかでも、昔ながらの木桶仕込醸造を守り続ける小豆島醤油は、先祖代々受け継がれてきた貴重な味を今に伝えています。
今回は“醤(ひしお)の郷(さと)”小豆島が生んだ、おいしい醤油の魅力に迫ります!
1.小豆島醤油の起源
小豆島醤油の歴史は、約400年前の戦国時代までさかのぼると言われています。
大坂城築城の石材を切り出すため、小豆島にやって来た採石部隊が醤油のもとを持ち込んだのが始まりとされています。
この醤油のもとは、紀州湯浅の金山寺味噌から出た上ずみ液だったそうです。諸国の大名が珍重する調味料に興味を抱いた島民は詳しい製法を学ぶため、遠路はるばる湯浅まで渡ったとも伝えられています。
四方を瀬戸内海に囲まれた小豆島ではもともと製塩業がさかんでしたが、江戸時代後期になると瀬戸内地方のあちこちで過剰生産が起こり、塩が余るようになりました。この塩を原料として活用すべく、醤油造りに舵を切ったのです。
温暖で雨が少ない小豆島の気候は、醤油の発酵熟成にとても適していました。
その他の原材料である大豆と小麦は近隣の九州から簡単に仕入れができ、さらには“天下の台所”大坂に海上輸送しやすい点も幸いしました。
小豆島は醤油の一大産地として発展していきます。
2.日本一、木桶が多い小豆島
小豆島醤油は、伝統の「木桶仕込」で醸造するのが大きな特徴です。
三十石桶と呼ばれる杉の木桶は直径約2メートル、高さ約2メートルもの大きさを誇ります。杉材の調達から製造、運搬、メンテナンスまで多くの手間がかかるため、近年では各地の醤油蔵から姿を消しつつある木桶。その貴重な木桶を小豆島の人たちは現在も大切に守り続けているのです。
島内には、全国の3分の1の数を超える1,000本以上の木桶が現役で使用されています。このため小豆島は日本一、木桶が密集する地域と呼ばれているのだとか。
昔ながらの情趣あふれる街並みは、ノスタルジックで牧歌的な空気が漂います。
3.伝統の木桶仕込醸造
次に、木桶仕込醸造の工程について紐解いていきましょう。
一般的な醤油は屋外の発酵タンクでもろみを仕込むので、酵母や乳酸菌を添加して温度管理をしながら、4ヶ月ほどで強制的に発酵させます。
いっぽう木桶仕込醤油は、木の繊維内に住み着いた麹の微生物が何十年という歳月をかけて、その蔵独自の生態系を作り出していきます。
この微生物が1~2年かけて自然発酵でもろみを熟成するため、旨み成分であるグルタミン酸がたっぷり詰まった、風味豊かな醤油ができるのです。
微生物が生み出す醤油の味わいは、蔵元によって一つひとつ異なります。同じ微生物を別の蔵に移し替えても、同じ味にはなりません。
小豆島醤油が醸造に使う木桶は、古いもので明治40年頃の年代物もあります。微生物を守り、代々のオリジナルな味を受け継いでいくためにも、昔ながらの木桶は大切なのです。
もし小豆島を旅する機会があれば、ぜひ醤油の蔵元を見学してみてください。
大人の背丈の倍以上もある巨大な木桶の表面をよく見てみると、ポコポコと無数の小さな穴が開いていることに気づくでしょう。
その小さな穴こそ、微生物が呼吸している証です。木桶に住む菌は、穴から空気を通したり水分を溜めたりして、それぞれの蔵にしか出せない奥深い味わいをコツコツと育んでいます。
できたての醤油をちょっぴり舐めて試食すれば、口の中いっぱいにふんわり深い旨みが広がり、香ばしい香りが鼻から抜けていきます。
4.麹本来の力が活きる本醸造醤油
小豆島醤油は大豆と小麦、塩を使い、1〜2年ほど時間をかけて熟成した本醸造醤油をメインに造っています。
「本醸造」とは江戸時代から続く伝統的な製法で、旨み成分を凝縮させたアミノ酸液を入れずに醸造するのがポイントです。
これに対し、もろみにアミノ酸液を加えた後、醸造してなじませる製法は「混合醸造」、搾りたての醤油にアミノ酸液を加える製法は「混合」と言います。
短期間で効率的に製造できる混合醸造や混合に比べ、麹本来の力を借りて自然に熟成を待つ本醸造は大変な手間ひまがかかります。
じっくり丁寧に時間をかけて造られた本醸造醤油には、独特の味・色・香りが生まれます。
【本醸造の手順】
- 蒸した丸大豆と炒った小麦を混ぜ合わせ、種麹(たねこうじ)を加えて麹を造ります。
- ①を食塩水と一緒に木桶に仕込んでもろみを造り、撹拌を繰り返しながら寝かせます。
- 麹や酵母、乳酸菌などの働きにより、分解・発酵が進みます。大豆のタンパク質は旨み成分のアミノ酸に、小麦のデンプンは甘み成分のブドウ糖に変化します。
- もろみを布に入れて圧搾・ろ過し、醤油と搾りかすに分離させます。この過程でできた醤油は生揚(きあげ)醤油と呼ばれます。
- 搾った生揚醤油を火入れ=加熱処理します。微生物が生きたままの状態では、発酵が進み品質が変化してしまうので、残った微生物を殺菌し、酵素を失活・除去して色の調整を行います。
5.食欲をそそる味・色・香り
さまざまな成分が複雑に絡み合い、おいしさのハーモニーを奏でる醤油。ここでは、醤油が持つ味・色・香りの特性についてご紹介します。
【味】
味覚の基本となる5種の味わい=五原味をバランスよく兼ね備えています。
〈旨み〉
大豆に含まれるタンパク質が酵素分解され、約20種類のアミノ酸に変化して生まれます。代表格のグルタミン酸も豊富に含有しています。
〈甘み〉
小麦のデンプンがブドウ糖に変化することで生まれます。
料理の味をやわらかくする働きがあり、口に含むと舌先にまろやかさを感じます。
〈酸味〉
乳酸菌の発酵・分解作用により、ブドウ糖が変化して生まれます。
この過程を経てできた有機酸類は塩味をマイルドに和らげ、味をすっきりさわやかに引き締める効果があります。
〈塩味〉
種類によりますが、濃口醤油の場合は約16〜17%の塩分を含んでいます。
海水と比較して約5〜6倍の濃度になりますが、舌にのせてもそれほどしょっぱく感じないのは、その他の成分が塩味をやわらかく中和して深みを引き出しているからです。
〈苦み〉
口に入れた際にあまり感じることはないかもしれませんが、実はイソロイシンなどのアミノ酸やペプチド類は苦み成分に含まれます。
料理に奥深いコクを演出する隠れた名脇役で、味全体をすっきりと引き締める重要な役割も担っています。
【色】
クリアで澄んだ美しい色が特徴ですが、種類によって微妙に色合いが異なります。
こうした色の違いは、小麦由来のブドウ糖と大豆タンパク質由来のアミノ酸が熟成期間中に反応して生まれるメラノイジンという物質によるものです。
【香り】
食欲を刺激する良い香りは麹や酵母、乳酸菌などの化学反応によって生まれます。
本醸造醤油の香り成分は、わかっているだけでもなんと300種類以上!
りんごやパイナップル、ローズ、バニラ、コーヒーなどの香気が幾重にも重なり合い、豊かな香りを醸し出します。
醤油は火入れを行うことで、よりいっそう香ばしさが際立ちます。火入れ作業を「火香(ひが)をつける」とも表現するのは、香り立ちがぐんとアップするからです。
独特の香りは、肉や魚介の生臭いにおいを消臭するスパイスとしても優秀です。
6.小豆島醤油は3種類
農林水産省が定めるJAS規格によれば、醤油の種類は白醤油・淡口(うすくち)醤油・濃口醤油・再仕込醤油・溜醤油の5つに分類されます。
小豆島ではこのうち、淡口醤油・濃口醤油・再仕込醤油の3種類を醸造しています。
なかでも定番の濃口醤油は、あらゆる料理に合う万能タイプ。焼き肉や焼き魚はもちろん、炒め物、煮物、漬物、さらにはスイーツの隠し味にもおすすめです。
3種類それぞれの特徴を見てみましょう。
【淡口醤油】
味:西日本で好まれる関西発祥の醤油。見た目に反して塩分はやや高く、濃口より食塩を1割ほど多く使用しています。素材の持ち味を活かす風味で、塩やレモンの代わりとしても活躍します。
塩分:約18〜19%
旨み成分(グルタミン酸):約730mg/100g
色:明るく淡い色合い
おすすめ料理:茶碗蒸し、だし巻き卵、白身魚の刺身、ムニエル、ししゃもフライ、ホタテバター、餃子、紅白なます、ナムル、なすの煮びたし、冷奴、とろろ汁など
【濃口醤油】
味:全国出荷量の8割以上を占める、最も一般的な醤油。北海道から沖縄まで各地で生産されており、東日本ではほとんどの地域に流通しています。あらゆる料理と相性が良く、つけ醤油から料理まで幅広い用途に使えます。
塩分:約16〜17%
旨み成分(グルタミン酸):約980〜1,680mg/100g
色:あざやかな赤褐色
おすすめ料理:炊き込みご飯、目玉焼き、納豆、まぐろの漬け丼、竜田揚げ、青椒肉絲(チンジャオロースー)、しょうが焼き、豚の角煮、唐揚げ、牛丼、じゃがバター、ほうれん草のおひたし、ぶり大根、たたききゅうり、筑前煮、けんちん汁、磯辺焼き、プリン、トーストなど
【再仕込醤油】
味:山口県発祥とされ、山陰〜九州エリアで親しまれる味。他の醤油は麹を食塩水で仕込みますが、再仕込は食塩水の代わりに醤油で醤油を仕込むユニークな製法をとっています。濃口に比べ2倍の原料・時間をかけて長期熟成するので、濃厚な味と香りに仕上がります。別名「甘露醤油」とも呼ばれています。
塩分:約12〜14%
旨み成分(グルタミン酸):約890mg/100g
色:濃く深い色合い
おすすめ料理:寿司、焼きうどん、煮卵、赤身魚の刺身、ステーキ、すき焼き、肉じゃが、バニラアイス、シフォンケーキなど
〈保存時の注意点〉
醤油は開栓後に時間が経つと、酸化の影響で徐々に色が黒ずみ、味も劣化してしまいます。直射日光を避け、低温の場所に保存しましょう。
7.おわりに
小豆島には地元醤油を使った佃煮やソフトクリーム、手延そうめんをはじめ、滋味豊かな名物が盛りだくさん。長い歴史や木桶仕込に思いを馳せながら、醤油グルメを味わうのも楽しいですね。
さまざまな蔵元の中から自分好みの醤油を見つけて、毎日の料理の味つけやアレンジなどに活用してみましょう!